!!研究目的と意義 世界に二つとない溜池経済と溜池文化の歴史を有しているのが、日本の香川県備讃瀬戸地域とチェコ共和国の南ボヘミアである。香川県の場合は水不足を解消し、田畑への水の恒久的な供給が中心目的とされ、日本最古の空海における満濃池築造以来、多くの溜池が建設されて来た。南ボヘミアの場合は、湿地帯でもあり、水を排除して農地を確保するため、あるいは、洪水などを防ぐため、また、鯉の養殖、ビール醸造、農業用水その他に使用される水の確保などの理由で多くの溜池が中世以来作られて来た。 この二つの地域には大きな差異もある。南ボヘミアでは、生態系の保全を基盤に、多様なエコツーリズムの可能性がある。また、中世以来のルネサンス建築からゴシック建築などによって彩られる多くの城を有し、深い伝統のある城下町が多数存在する歴史的基盤に基づき、共産主義時代の閉鎖された空間から、重厚で多様な開放的観光地域に変貌しつつある。それに対して、香川県の場合は、稲作を縮減し、スプロール現象で住宅地が拡大し、瀬戸内のこの上ない自然を有しつつも、長期的に築き上げられて来た人工の美的自然景観を失いつつあり、観光客は減少傾向にある。また、コンクリートの護岸工事が一般化している溜池地域のあり方は、今後、地域の観光あるいは生活資源としての見直しが必要である。 地域に根ざした大学が今後新たな生活世界を構築していくためには、両者を学術的に比較しながら、多様な超学際的な研究への進展を目指すことが肝要である。両地域に関する歴史的地域資源に関する基礎研究を通じて、親密な継続的交流関係の実現を目指したい。 !!研究の効果 *学術的効果 研究代表者村山が南ボヘミアの研究者の協力を得て行なう歴史人口学的家族史研究は、これまで長年の蓄積のある研究成果に基づき、今回新たに発見した世界レベルでも貴重な史料を分析することにより、斬新な学術的成果を提示する。3年間という限られた研究期間における成果としては、地域情報の同質性と差異性を明確にすることを第一の課題とすることにより、異質な社会の情報基盤の差異を明らかにし、教育研究ならびに学術交流の情報基盤を精査する。また、水文学を専門とする新見は、現在の溜池経済と文化の比較研究を通じて、世界に二つとない溜池地域の交流を可能にする情報基盤を学術的に整理する。また、原を中心に行なうエコツーリズムの比較研究は、備讃瀬戸と南ボヘミアの双方向で、両者それぞれに適用可能な学術的基盤を整備する。 *社会的効果 多数の人工的溜池を持つ両地域を学術的に比較し、両者の特色を明らかにすることは、その人工的な構築物空間の希少性を明確化し、それを通じて、具体的なエコツーリズム運動への展開を可能とする。また、その際、この研究で取り上げる歴史人口学的家族史研究、水文学的地理研究ならびにエコツーリズムの社会経済的研究に加えて、徐々に農学および工学などの自然科学分野あるいは医学や心理学等、他の専門分野の研究者との協力関係を構築することにより、生活世界としての溜池経済・文化の社会的貢献の可能性が明確化され、新たな地域活性化運動を展開することができる。また、大学を中核とした地域空間の継続的な交流関係を構築することにより、相互の刺激に基づく地域力の向上が可能となる。 !!今後の計画 *第1回ワークショップ 2008年11月5日から7日にかけて、溜池文化の比較研究ならびに遠隔教育に関するワークショップを高松で開催する予定である。{{ref PreliminaryProgrammeV4.doc}} *公開講演会 2008年11月7日にチェコ共和国南ボヘミア大学と香川大学は交流協定に調印します。この調印を記念して、チェコ共和国からお迎えするグルーリヒ博士とマトラス博士による公開講演会を添付ファイルのように開催する予定です。{{ref OpenLecture.pdf}} *第2回ワークショップ 2009年11月を目処に南ボヘミアのチェボーニュで第2回ワークショップを開催する予定である。 *今後の展開 チェコ特に南ボヘミアと讃岐の比較から出発した溜池文化の比較研究であるが、「水」を巡る問題は非常に多様な視点を包摂できることが分かっている。溜池文化という特定地域に限定された比較研究に基づいて、水路、河川、貯水池、ダム、河口堰、そして、洪水、水不足、保養地など、災害、社会問題、環境問題など、多面的で多様な論点を収斂させることができるようなローカルヒストリー・アプローチを方法的にも洗練する必要がある。 その上で、2010年度を目処に大規模な国際研究集会を開催したい。