トップ 一覧 検索 ヘルプ RSS ログイン

地域開発研究プロジェクトの変更点

  • 追加された行はこのように表示されます。
  • 削除された行はこのように表示されます。
!!!コミュニティ・ベースの地域開発に関する比較経済史的応用研究
*日本学術振興会科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究(課題番号:21653026)(研究代表者:村山 聡)
** 平成21年度から平成23年度にかけての予定
** 平成21年度から平成23年度

!!研究目的
開発途上国の社会問題の解決策には本当の正解はないかもしれない。しかしもしこれまでに試されたことのないアプローチがあるとすれば、それは教育に重点を置いた経済史学・地理学的アプローチだと考える。具体的な対象地域をモデルケースとして、斬新な知識情報システムを構築し、地域の問題解決を実践する。
前近代の地理学的な比較経済史研究を基盤としつつ、過去と現在、そして、地球上の様々な地域を縦横に駆け巡り、特定地域を拠点として、現実的実際的な活動を展開する。重点とするのは安全な水と食の確保であり、同時に災害に強く生活基盤の盤石な社会の実現、そして自然環境に配慮した人にやさしい社会の構築を目標とする。
壮大な目標であるが、今回の応募においては、特に水環境と水文化に注目し、安全な水の確保、水災害に強い社会の構築、同時に緑の革命以降常識となっている環境に配慮した社会システムの整備を、バングラデシュのグラム・バングラというNGOが活躍している一村落を舞台に展開する。
人類史のあらゆる英知を結集して、一つの村落をモデルケースとして様々な実験的な試みを行う。本萌芽研究では、この事業の本格的展開のための準備を行うことにする。

<研究の学術的背景>

環境史は新時代が到来している。その環境史に基づいて、新たなコミュニティ・ベースの地域開発が期待されている。ドイツ近代の水環境と景観の誕生に関して先駆的な業績となったのはハーバード大学のディヴィッド・ブラックボーンの『自然の克服』(2006年)である。本研究の着想の出発点はこの著作にある。近代景観の誕生は実に複雑な歴史を有しており、単純な道筋はない。
現在の先進工業国のほとんどは水害や水不足の対策に長い年月を費やしてきており、多くの経験が蓄積されている。しかし、単純に歴史の教訓を現在に当てはめようと言うのではない。科学技術の進展と共に治水対策の歴史は実にダイナミックな展開を示してきたからである。あらゆる知識情報を踏まえて、見通しの利く小さな単位で、様々な試みを実践する必要がある。
たとえば、無数のため池群を配した水利システムを中世末期から発展させた南ボヘミア、複雑に蛇行するライン川上流の治水システムを実現した19世紀半ばのヨーロッパ、水不足を解消させるために初めての巨大なダム建設を行った南フランス、そして、巨大な乾燥地域に水資源の供給を可能にしたコロラド河のダム建設を含めた開発など歴史事例が不足することはない。
日本の場合も、東京都民への水の供給を可能にした小河内ダムなど、科学技術と社会情勢そして国家的な財政基盤の成熟が達成した効果は大きい。これらのあらゆる経済史的ならびに歴史地理学的知識と経験に基づき、少なくとも間違いのない方法は何かを、ローカルなイニシアティブを重視して、人材養成を基軸として実践的な活動を行う。つまり、経済史学ならびに歴史地理学の知見に基づき、現代社会で新たな政策展開を目指す。

<研究期間内に明らかにすること>

内外の研究者との協力関係をさらに強固なものとするために、信頼のネットワークを構築し、具体的な行動方針を決定する。

<本研究の学術的特色及び予想される結果と意義>

ローカルで小さな資本で可能な対策と経済的に成熟した国のレベルでのみ可能な対策との区別が経済史学的ならびに歴史地理学的に明確にされると考える。そのことにより、開発途上国のみならず、新興開発国ならびにODA諸国の一員である日本においても、グラム・バングラをモデルに、コミュニティ・ベースの斬新な地域開発の方向性が明らかにされるであろう。

!!研究の斬新性・チャレンジ性
<斬新性とチャレンジ性>

経済史学ならびに歴史地理学の分野において、すでに多様に国際レベルで比較できる現状において、この学術的な国際比較研究を現代社会へ応用する方向を模索する本研究は、本格的に歴史的経験に基づく地域政策の展開を目指すものであり、そこに、これまでの学問世界ならびに国や地方の政策部門には全くなかった斬新さがある。
さらに例えば、現在のライン川上流地方における再自然化の運動においても、洪水などの歴史的現実と現代の科学技術との出会いと、コミュニティ・レベルでの住民の話し合いにおいて、今までとは全く異なる新たな技術投資に基づく多様な方向性が模索されている。その意味ではモデルケースがないわけではない。しかし、世界中のあらゆる知識と経験に関する情報を一元化し、あらゆる知の出会いと持続的な討議と実践の継続される場、それをここでは「知識情報システム」と呼ぶ。
現代の情報メディアを駆使して、水をめぐる政策対応において、斬新かつチャレンジ性に富んだ新たな教育システムの開発を行う。実は、水問題をある程度制御できるようになっている国々では、多様な教育モジュールがすでに開発されているにもかかわらず、その多様な応用可能性が歴史の中に埋没しているのである。

<新しい原理・着想・方法論そして成果への道筋>

多様な教育モジュールを開発できる「知識情報システム」の構築という新しい原理の学術的な基盤は、本研究の研究代表が、やはり研究代表者として遂行している基盤研究(A)「近代以降期における地域情報とその蓄積過程に関する比較制度研究」(平成19年度から4年間の予定。課題番号:19203018)において、特に近世日本の庄屋システムの持つコミュニティ・レベルでの地域政策の評価にある。ローカルなイニシアティブとナショナルなイニシアティブとのバランスについて、巨大な国家的な資本投下のない時代の特徴を明らかにしており、さらにチェコ共和国南ボヘミアあるいはドイツ連邦共和国ライン川上流地域の歴史事情の探索から、さらにインターナショナルなイニシアティブとの相互関係についての議論へと展開している。地域開発の新たな原理の整理がなされつつあり、それを現実の社会へと応用することにより、この新たな原理はさらに精緻なものとすることができる。
このような社会科学的な歴史地理学および比較経済史研究における新たな応用研究の課題に至る着想は、長く共同研究を遂行してきた溝口常俊が、文部科学省から助成された名古屋大学環境学研究科における「魅力ある大学院教育イニシアティブ」における平成18年度から2年間のバングラデシュとの交流実績を基づくものであり、またさらに、本研究の代表者が香川大学において、やはり代表者として、平成19年度から2年間にわたり進めている文部科学省の先導的大学改革推進委託事業による「遠隔教育」に関する調査とも深く関係する。これらに基づき、新たな国際的な教育システムの構築を目指すという着想を得ている。
この全く独自の発想に基づく国際的な教育システムの開発は、大学制度としては、複数学位制度あるいは国際間の大学間連携によるコンソーシアム形成などを視野に入れており、総合科学技術会議「科学技術外交の強化に向けて」(平成19年4月24日)で指摘されているような「世界の環境リーダーの育成」あるいは「わが国の優れた環境技術の成果を途上国の必要に応じて積極的に提供」していくことを可能にすると考える。さらに、水に関係する産業界と地理・歴史学的な学問世界という「異能の人たちの適切な融合」を目指すこの教育システムの開発は、「イノベーション25」(平成19年6月1日)でも触れられている「イノベーションを生みやすい「場」」を日本とバングラデシュとの間で提供できるものと確信する。
つまり、学術交流協定などに基づく大学間の教育研究交流を、それぞれの大学を拠点として、それぞれの地域の地方政府やNGO団体などと協力して、拠点的な地域間交流に基づき、様々な政策実現への試みを行う予定であり、その成果は確実性のかなり高いものとして期待できる。

!!研究計画・方法
バングラデシュの水に起因する災害についてはすでに京都大学「防災研究所」や独立行政法人土木研究所「水災害・リスクマネジメント国際センター」などが詳細な調査に基づく報告書を提出しており、災害の状況や社会問題の整理は格段に進んでいる。他方で具体的にどのように災害に強い国土を開発し、安全な水を恒常的に確保していくかという点になると、先進諸国が経験してきた数百年という時間幅を急激に短縮することの困難さに直面する。
本共同研究で、中心となる共同研究機関として挙げられるのは、バングラデシュの基幹大学であるバングラデシュ工科大学ならびにダッカ大学である。また、同時に国家レベルでのバングラデシュ水資源計画組織との交流による政府との連携も不可欠である。しかし、何よりこの国際共同研究プロジェクトで特徴的なのは、ローカルなレベルでのNGO組織であるグラム・バングラとの密接な連携であり、そこをモデルケースとしての活動拠点として、環境技術の積極的な提供と需要者側のニーズの検証を行いつつ調査研究を実施していく。
いわば、政府レベル、知識人レベル、民間レベルの三つのレベルでそれぞれ数年単位の短期、十年単位の中期、数十年単位の長期に対応可能な政策の優先順位を明確にしていく。短期的な共同研究では十分な成果を収めることは難しいが、他方で、緊急性の高い項目については迅速な対応が必要である。
念頭においている一つの事例としては、本調査研究の連携協力機関であるフライブルク大学の自然地理学研究所で、2006年から2007年にかけて開発されたWEBGEOという教育モジュールであり、バングラデシュ政府の農業省を対象に開発された洪水と農業発展との関係に関するものである。詳細なコンテンツを精査したこのような試みがどのような意義を有するかについても現地との継続的な応答が不可欠である。新たな教育システムの開発には様々な可能性があるが、すべて現地との密接な連携と持続的な活動が必要である。

<平成21年度>
フライブルク大学自然地理学研究所所長であるリューディガー・グラーザーとはすでに共同研究を開始しているが、さらに明確に研究目的と方向を明らかにするために、今年度に香川大学で開催を予定している水文化ならびに遠隔教育に関する国際ワークショップでの討議をきっかけとして、平成21年度には具体的な研究協力体制を確立する。
またバングラデシュの諸機関ともすでに平成20年度に一度現地を訪問し、協力関係の基盤を作っているが、さらに本研究に基づき、具体的な年次計画を立てることにより、さらに競争的資金の獲得に向けた基盤整備を行う。
以上の意味で、本研究プロジェクトでは、バングラデシュでの連携機関としては、三つの異なったレベルでの共同研究を実施する。あらゆる現実的な活動拠点として、地方のNGO組織であるGRAM BANGLAでの問題解決を目指し、現地の研究機関としては、バングラデシュ工科大学ならびにダッカ大学にそれぞれ研究拠点を設置し、さらに、政府間でのODAなどの調整については、政府機関である「水資源計画機構」を政策調整拠点として設定している。このいずれもとの共同研究が不可欠であり、それぞれについて独自の教育モジュールの開発が期待されている。
連携機関との具体的な研究内容は以下の四つに分類される。
(1)上水の安定供給のための世界各地での政策対応についての歴史学的分析(=水の供給に関する歴史分析)(2)水に関連する災害対策に関する日本と世界の経験の分析(=水害とその対策に関する歴史分析)(3)バングラデシュの水害と水文学的システムに関する地理学的分析(=水害と水利システムに関する地理分析)(4)持続可能で現実的な政策実現のための教育システムの構築(=国際的教育システム構築)